いびきの外科手術に必要な費用や効果とデメリットについて
「いびきをかくのは仕方がない」「歳をとったら、みんなそうなるもの」そう思っていませんか?
いびきはよくある症状ですが、放置すると睡眠時無呼吸症候群などの深刻な病気を引き起こす可能性があります。
いびきの治療法は様々ですが、今回は根本的な解決を目指す「外科手術」について、手術の種類や方法、効果とリスクについて詳しく解説していきます。
いびきの外科手術の種類や方法について
いびきの外科手術には、いびきの原因となっている部位によってさまざまな種類・方法があります。
ここでは、いびきの原因となっている部位ごとにどのようないびきの外科手術があるのかを紹介します。
様々ないびきの外科手術の種類
いびきの外科手術は、いびきの原因となっている部分を特定し、その部分にアプローチする手術方法を選択することが重要です。
大きく分けて以下の3つの種類があります。
主流ないびきの外科手術
- 鼻の手術
- 口蓋垂(こうがいすい)・軟口蓋(なんこうがい)の手術
- 舌の手術
鼻は空気の通り道となる最初の関門です。ここが狭くなっていると、スムーズな呼吸が妨げられ、いびきをかきやすくなります。
例えば、鼻中隔彎曲症(鼻の真ん中の壁が曲がっている状態)は、家のドア枠が歪んでドアがうまく閉まらないような状態です。
この場合は、鼻中隔矯正術という手術を行い、曲がった鼻中隔をまっすぐにすることで、空気の通り道を広げます。
また、鼻の中に鼻ポリープがある場合は、鼻茸切除術を行い、ポリープを取り除くことで、空気の通り道を確保します。
- 鼻中隔矯正術
鼻中隔軟骨の一部を切除して修正する手術です。局所麻酔と全身麻酔のどちらかで行います。 - 鼻茸切除術
鼻茸を切除する手術です。鼻茸が小さい場合は、外来で局所麻酔で行うことができます。
のどちんこのことで、軟口蓋は口蓋垂の上の柔らかい部分のことです。
ここが長かったり、厚みがあったりすると、睡眠中に気道を塞ぎやすくなり、いびきの原因となります。
- 口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)
口蓋垂の一部を切除し、軟口蓋を引き締めることで気道を広げる手術です。 - 口蓋垂口蓋形成術(LAUP)
UPPPと同様に気道を広げる手術ですが、レーザーを用いることで出血を抑え、術後の痛みや腫れを軽減することができます。
舌は、睡眠中に気道を塞ぐ原因となることがあります。
特に、舌の付け根が大きかったり、舌の筋肉が緩んでいたりする場合は、睡眠中に舌が喉の奥に落ち込みやすく、気道を狭くしてしまいます。
- オトガイ舌筋前進術
下あごの骨を部分的に切断し前方に移動させ、舌の筋肉を前に引っ張り気道を広くする方法です。舌を前に出すことで舌根沈下を防ぎ、気道を広げます。
いびきの外科手術の方法と手順
代表的な手術方法であるUPPPを例に、手術の方法と手順を説明します。UPPPの手術は主に、口蓋垂が長すぎる場合に行われる手術です。
- 麻酔
手術は全身麻酔で行われるため、手術中は眠っていて痛みを感じることはありません。 - 切開
口の中を開き、口蓋垂や軟口蓋の一部を切除します。 - 縫合
切除した部分を糸で縫い合わせます。 - 術後
手術後は、数時間安静にした後、食事や歩行が可能です。入院期間は、通常1週間程度です。
いびきの外科手術の費用や効果について
いびきの外科手術を検討するにあたって、費用対効果やリスクは気になるポイントです。
ここでは、手術費用や保険適用、メリットについて、具体的な手術方法を交えながら詳しく解説していきます。
いびきの外科手術の費用と保険適用状況
いびきの外科手術の費用は、手術方法や手術を行う医療機関によって大きく異なります。
例えば、比較的簡易なレーザー治療であれば、日帰り手術も可能で、費用は3万5千円程度が目安です。
口蓋垂軟口蓋形成術(UPPP)も保険適用で3万円程度ですが、加えて約1週間分の入院費用がかかります。
手術方法 | 保険適用 | 自己負担額目安 | 具体的な内容 |
---|---|---|---|
口蓋垂軟口蓋形成術(UPPP) | 〇 | 3万円 | のどちんこ(口蓋垂)と軟口蓋の一部を切除し、気道を広げる手術。約1週間の入院が必要。 |
レーザー治療 | 〇 | 3万円 | レーザーで粘膜を焼いて切除し、気道を広げる。比較的簡易で、日帰り手術も可能。 |
扁桃高周波焼灼術 | 〇 | 5,400円 | 高周波の熱で扁桃を凝固させ縮小し、気道を広げる。レーザー治療と同様に、日帰り手術も可能。 |
下顎骨移動術 | 〇 | 30万円 | あごの骨を切断し、あごの位置を前方にずらすことで、気道を広げる手術。効果が高いが、大がかりな手術となる。 |
ただし、あくまでも目安であり、実際にかかる費用は検査費用や入院費用なども含めて医療機関によって異なるため、事前に確認することが重要です。
いびきの外科手術のメリットと効果
いびきの外科手術のメリットは、何といってもその効果の高さです。手術によって、気道の狭窄が改善され、いびきが軽減、あるいは消失することが期待できます。
例えば、口蓋垂軟口蓋形成術(UPPP)を受けた方の多くは、術後、いびきが大きく改善した、あるいは全く気にならなくなったと報告しています。
いびきが改善することで、睡眠の質が向上し、日中の眠気や倦怠感の解消にもつながります。さらに、最近注目されているのが、いびきの外科手術が睡眠時無呼吸症候群(SAS)にも効果があるということです。
いびきの外科手術のメリットと効果
- いびきの改善
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の改善
- QOL(生活の質)の向上
いびきの原因となる、のどの奥の気道が狭くなっている部分を広げたり、組織を切除することで、空気の通り道を確保し、いびき音を軽減します。
重症のいびきは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を合併している可能性があります。SASは、睡眠中に呼吸が止まってしまう病気で、放置すると高血圧や心臓病などのリスクを高める要因の一つです。
外科手術によって、気道を広げることで、SASの症状を改善することができます。
いびきやSASが改善することで、睡眠の質が向上し、日中の眠気や倦怠感が軽減されます。
また、パートナーとの関係改善や、旅行や出張などの際に気兼ねなく過ごせるようになるなど、生活の質が向上する効果も期待できます。
睡眠の質を向上させるために必要な項目は、以下の記事でも解説しています。
いびきの外科手術の多くは、気道を広げることでいびきを改善することが目的です。
効果は、手術の種類や症状の程度、そして、個人によって異なりますが、ある研究によると、様々な種類の咽頭形成術において、主要な有効性パラメータ(無呼吸・低呼吸指数、酸素飽和度指数、およびエプワース眠気尺度)の全体的な改善が、重大な合併症なしに示されたという報告があります。
しかし、手術の効果が一生涯持続するとは限りません。加齢や体重増加などによって、再びいびきが始まる可能性もあります。
また、手術には合併症のリスクも伴うため、手術を受けるかどうかは、医師とよく相談し、慎重に判断する必要があります。
いびきの外科手術を検討する際に知っておきたい情報
いびきの外科手術は、気道の狭い部分を広げていきます。 手術の種類や方法、費用、効果、リスクなど、事前に知っておくべき情報がたくさんあります。
ここでは、手術時間や入院期間、回復期間、病院の選び方など、手術を検討する上で特に知っておきたい情報をまとめました。
いびきの外科手術の手術時間と入院期間
いびきの外科手術の時間は、手術の内容や方法によって大きく異なり、30分から数時間かかる場合が多いです。
例えば、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)は、口蓋垂(のどちんこ)や軟口蓋の一部を切除して気道を広げる手術です。
この手術は1時間から2時間程度かかることが多いです。
一方、レーザー治療や高周波焼灼術などの比較的小規模な手術は、ピンポイントでいびきの原因となっている部分にアプローチします。これらの手術であれば、15分から30分程度で終わることもあります。
入院期間も、手術の内容や方法、患者の回復状況によって異なります。一般的には、UPPPなどの場合は、手術後の腫れが引くまで1週間から10日程度の入院が必要となることが多いですが、日帰り手術が可能な場合もあります。
手術の種類 | 手術時間 | 入院期間 |
---|---|---|
口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP) | 1時間~2時間 | 1週間~10日 |
レーザー治療 | 15分~30分 | 日帰り~数日 |
高周波焼灼術 | 15分~30分 | 日帰り~数日 |
いびきの外科手術の回復期間と日常生活への影響
いびきの外科手術後の回復期間は、手術の内容や方法、患者の体質によって個人差がありますが、一般的には手術後数日は痛みや腫れ、違和感などがみられます。 これは、手術によって組織が傷ついているために起こる、いわば体の自然な反応です。
手術後数日は、傷口を安静にして、医師の指示に従って、痛み止めや抗生物質などの薬を服用する必要があります。 この時期は安静を保ち、体がしっかりと回復することに専念することが大切です。
日常生活への影響としては、手術後数日は、食事や会話が制限される場合があります。 これは、傷口に負担をかけないようにするためです。
例えば、固い食べ物は避け、スープやおかゆなど、消化の良いものを食べるようにします。 また、大声で話したり、歌ったりすることも控えるようにしましょう。
仕事や学校、運動などの活動も、医師の指示に従って、徐々に再開していく必要があります。 最初は軽い運動から始め、徐々に強度を上げていくようにしましょう。
手術後数週間は激しい運動や飲酒・喫煙などは控え、バランスの取れた食事と十分な睡眠を心がけることが大切です。 これは、傷口の治りを早め、再発を防ぐために重要です。
日常生活で注意すべきこと
- 手術後数日は、安静にして、医師の指示に従って、痛み止めや抗生物質などの薬を服用する
- 食事や会話は、医師の指示に従って、徐々に再開する
- 仕事や学校、運動などの活動は、医師の指示に従って、徐々に再開する
- 手術後数週間は、激しい運動や飲酒、喫煙などは控える
- バランスの取れた食事と十分な睡眠を心がける
いびきの外科手術を行う病院やクリニックの選び方
いびきの外科手術は、耳鼻咽喉科の中でも、睡眠時無呼吸症候群の治療に精通した医師がいる病院やクリニックを選ぶことが大切です。
「日本睡眠学会総合専門医」や「日本睡眠学会歯科専門医」の資格を持つ医師がいるかどうかも一つの目安になります。
これらの資格は、睡眠時無呼吸症候群の診断や治療に関する高度な知識と技術を持っていることを証明するものです。
また、手術の実績が豊富な病院やクリニックを選ぶことも重要です。 手術件数が多いほど、医師の経験値が高く、手術の成功率も高くなる傾向があります。
さらに、セカンドオピニオンを受けることも検討しましょう。 セカンドオピニオンとは、現在治療を受けている病院とは別の病院で、診断や治療方針について意見を求めることです。
セカンドオピニオンを受けることで、より多くの情報を得ることができ、自分に最適な治療法を選択することができます。
病院選びのポイント
- 睡眠時無呼吸症候群の治療に精通した医師がいる
- 手術の実績が豊富である
- 設備が充実している
- セカンドオピニオンにも対応している
これらのポイントを踏まえ、自分にとって最適な病院やクリニックを選びましょう。
いびきの外科手術の注意点とリスク
いびきの外科手術は、鼻や口の中の構造を改善することで、いびきを軽減したり、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状を改善する効果が期待できます。
しかし、外科手術にも必ずリスクや注意点があります。
いびきの外科手術の失敗例と合併症
外科手術は、100%成功するものではありません。いびきの外科手術においても、残念ながら完全に症状が改善しない場合や、合併症が起こる可能性があります。
いびきの原因は人それぞれで、手術が適応しやすい原因と、そうでない原因があります。
例えば、肥満体型で気道が狭くなっていることが原因のいびきの場合、手術の効果が限定的になることがあります。これは口や喉の中を手術したとしても首の周りの脂肪が気道を圧迫し、気道が狭くなってしまうためです。
口蓋垂口蓋筋形成術(UPPP)などの手術は、口蓋垂や軟口蓋の一部を除去することで気道を広げますが、咽頭の空間が狭いなど、患者さんによっては効果が十分に得られないことがあります。
手術後、時間経過とともに組織が変化し、再びいびきが出現する可能性があります。体の組織が時間とともに変化してしまうことがあるためです。
特に、鼻の粘膜を切除する手術では、術後に粘膜が再生することで鼻づまりが再発することがあります。これは、傷が治るときのように、鼻の粘膜も再生する力が強いためです。
いびきの外科手術には、出血、感染、痛み、腫れ、鼻閉感、声の変化、味覚の変化、口蓋の麻痺などの合併症のリスクがあります。
また、まれに、手術部位の出血がひどく、再手術が必要になる場合もあります。
いびきの外科手術は、すべての人に適応される万能薬ではありません。
そもそも、いびきの外科手術は、いびきやSASの症状が重度で、日常生活に支障をきたしている人が対象です。
また、扁桃肥大やアデノイド肥大、鼻中隔彎曲症など、いびきの原因がはっきりしている場合に適応されます。
一方、軽度のいびきや肥満などが原因で気道が狭くなっている場合は、手術以外の治療法が選択されることが多いです。
また、妊娠中の方や心臓病、糖尿病などの基礎疾患がある方は手術ができない場合があります。
いびきの外科手術を受けるかどうかは医師とよく相談し、メリットとデメリットをよく理解したうえで最終的に自分で判断することが大切です。
いびきの外科手術後のケアとフォローアップ
いびきの外科手術後の回復期間や日常生活への影響を最小限に抑え、手術の効果を最大限に引き出すためには、適切なケアとフォローアップが不可欠です。
手術後は、医師の指示に従って安静にすることが大切です。また、禁煙や飲酒制限、バランスの取れた食事、適度な運動などの生活習慣の改善も重要です。
手術後、定期的に医師の診察を受け、経過観察を行う必要があります。また、手術の種類によっては、手術部位のクリーニングが必要になる場合があります。
例えば、鼻の手術を受けた場合は、鼻洗浄を定期的に行うことで鼻腔を清潔に保ち、炎症や感染症を予防することができます。
手術後、もしも強い痛みや出血、発熱、呼吸困難などの症状が現れた場合は、すぐに医師に連絡することが大切です。
手術の副作用に対する内服薬の追加や再手術が必要かを確認するため、医師の判断をあおぎましょう。
いびきの外科手術は、原因に直接アプローチできる有効な手段ですが、体への負担や費用、合併症のリスクなどを考えると、ためらってしまう方もいるかもしれません。
最近では外科手術よりも身体への負担が少なく、短時間で治療が可能なレーザー治療も注目されています。
レーザー治療であれば、切開を最小限に抑えながら出血や痛みを抑えられるため、術後の回復も比較的早いというメリットがあります。
まずは医師に相談し、様々な治療法についてメリット・デメリットを比較しながら、じっくりと検討してみましょう。