コラム
COLUMN
過眠症とは何?日中の強い眠気といびきの関係性
過眠症は、単なる「眠い」という状態を超えて、日常生活に支障をきたすほどの強い眠気を伴う病気です。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の後遺症で過眠症をきたすことがあり、近年過眠症の患者数は増加傾向にあると言われています。
この記事では、過眠症の主な種類や特徴、原因、診断方法、そして治療法について詳しく解説していきます。 日中の強い眠気に悩んでいる方はぜひ最後まで読んでみてください。
過眠症の主な種類と特徴
過眠症は、会議中に強烈な眠気に襲われて集中できなかったり、運転中に意識が朦朧としてしまったりするなど、自分自身だけでなく周囲の人にも危険の及ぶ可能性がある病気です。
過眠症は原因や症状によっていくつかの種類に分けられます。今回は代表的な過眠症の種類とそれぞれの特徴について詳しく解説していきます。
中枢性過眠症の症状と診断基準
中枢性過眠症は、脳の司令塔である「睡眠中枢」がうまく機能せず、睡眠と覚醒のリズムが乱れることで起こります。
中枢性過眠症は、さらに以下の2つに分類されます。
中枢性過眠症
- 特発性過眠症
- クライン・レビン症候群
特発性過眠症は、毎日のように長時間の睡眠と日中の耐え難い眠気に悩まされる病気です。
たとえば、毎晩10時間以上寝ても日中に激しい眠気に襲われ、仕事中に居眠りをしてしまい上司から注意を受けてしまうといったことが起こります。
クライン・レビン症候群は、10代の若者に多くみられ、過眠状態とそうでない期間を繰り返す点が特徴です。
過眠状態が続いている時期には1日に15時間以上眠り続け、食欲が異常に増したり集中力の低下や無気力状態に陥ったりします。
中枢性過眠症の診断には、問診や身体診察に加えて睡眠の状態を詳しく調べる検査が必要となります。
- ポリソムノグラフィー:一晩入院して脳波や呼吸、心拍などを記録する
- 睡眠潜時反復検査(MSLT):日中に眠りやすいかどうかを調べる
これらの検査を通して、他の過眠症の原因となる病気がないか睡眠の状態を客観的に評価することで正確な診断が可能となります。
睡眠時無呼吸症候群と過眠症の関連性
睡眠時無呼吸症候群とは?
睡眠中に呼吸が何度も止まってしまう病気です。
いびきをかく人や肥満の人に多くみられ、睡眠が浅くなってしまい日中の強い眠気や倦怠感などの症状を引き起こします原因です。
中枢性過眠症と睡眠時無呼吸症候群は、どちらも日中の強い眠気を引き起こすという共通点があります。
日中の強い眠気を訴えて病院を受診した場合、医師はまず睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑い検査を行います。
うつ病と過眠症の相関
うつ病とは?
気分が落ち込み、何事にも興味や喜びを感じにくくなる病気です。
うつ病になると睡眠にも影響がでることがあり過眠の症状が現れる人もいる病気です。
うつ病によって体内時計が乱れたりストレスホルモンの分泌が変化したりすることが原因と考えられています。
うつ病になると脳内の神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンなどの分泌量が減少します。これらの神経伝達物質は、気分や意欲、感情のコントロールだけでなく睡眠にも影響を与える要因です。
ナルコレプシーと特発性過眠症の違い
ナルコレプシーと特発性過眠症は、どちらも日中の強い眠気を主症状とする病気ですが、いくつかの点で異なります。
- 感情が高ぶったときに急に体が動かなくなる「カタプレキシー」
- 眠っているときに金縛りにあったり、夢をみているような体験をしたりする「入眠時幻覚」
特発性過眠症では、このような症状はみられません。
ナルコレプシーは、脳内の神経伝達物質である「オレキシン」の減少が原因と考えられていますが、特発性過眠症の原因はまだはっきりとわかっていません。
治療法としては、ナルコレプシーには日中の眠気を抑える薬やカタプレキシーなどの症状を抑える薬が処方されます。
特発性過眠症に対しても、日中の眠気を抑える薬が処方されることがあります。
ナルコレプシーと特発性過眠症は、それぞれ異なる病気であるため、適切な診断と治療法を選択することが重要です。
過眠症の原因と発症メカニズム5つ
過眠症の裏には、複雑なメカニズムが隠されていることがあります。
単なる「寝不足」や「サボり」と片付けてしまう前に、過眠症が引き起こされるさまざまな原因を探ってみましょう。
過眠症の原因
- 遺伝的要因
- ホルモンバランス
- 環境要因
- ストレス
- 睡眠の質と生活習慣
私たちの体質は、親から受け継いだ遺伝子によって大きく左右されます。目の色や髪質だけでなく、実は「睡眠」にも遺伝子が深く関わっているのです。
ナルコレプシーは、遺伝的な要因が大きく影響しており、家族にナルコレプシーの方がいる場合は発症するリスクが高くなる病気です。
「ナルコレプシー」という病気は、脳内で「オレキシン」という物質を作る神経細胞が免疫の異常によって攻撃されてしまうことで起こります。
オレキシンは私たちの体を「活動モード」に切り替えるスイッチのような役割を担っています。
ホルモンバランスの乱れも過眠症を引き起こす要因の一つです。
思春期に分泌が増加する性ホルモンは、睡眠と覚醒のリズムを調整する体内時計に影響を与え、過眠傾向を引き起こすことがあります。
このようにホルモンは、私たちの体の中でさまざまな機能をコントロールしています。
バランスが崩れてしまうと睡眠にも影響を及ぼし、過眠症の症状として現れることがあるのです。
妊娠中は「プロゲステロン」というホルモンが大量に分泌されます。
プロゲステロンは、体温を上昇させて受精卵を守ったり、子宮内膜を厚くして着床を促したりする働きを持ち、同時に眠気を強くする作用も持ち合わせています。
したがって妊娠初期には強い眠気に悩まされる妊婦さんが多いです。
私たちの体は、周囲の環境の変化に非常に敏感です。
とくに、睡眠と覚醒のリズムを刻む体内時計は、太陽の光や気温、生活習慣などの影響を大きく受けます。
体内時計は約24時間周期で変化しており、睡眠と覚醒、体温調節、ホルモン分泌などのさまざまな生体リズムをコントロールしています。
夜間に光を浴びたり、昼夜逆転の生活を続けたりすると体内時計が狂ってしまい、本来眠るべき時間に眠気が訪れず、日中に強い眠気に襲われるようになってしまうのです。
ストレスを感じると交感神経が優位になり、心拍数や血圧が上昇し、覚醒状態が続きます。これは緊急事態に備えて体が闘争・逃走反応を起こすためのいわば動物としての本能的な反応です。
しかし慢性的にストレスにさらされ続けると交感神経が過剰に働き、夜になってもリラックスできずなかなか寝付けなくなったり、眠りが浅くなったりしてしまいます。
ストレスは、うつ病などの精神疾患を引き起こすリスクを高めることが知られており、うつ病の症状の一つとして、過眠が現れることがあります。
睡眠において重要なのは、時間の長さだけでなく「質」も大切です。
質の高い睡眠とは、深い眠りについている状態のことです。
深い眠りについている間は、脳が休息し、体の疲労回復や免疫力の向上、記憶の整理などが行われます。
しかし、睡眠の質が低下するとたとえ睡眠時間が十分であっても、日中に眠気や疲労感が残ってしまったり集中力や注意力が低下したりすることがあります。
- 騒音
- 照明や街頭などの光
- 寝る直前にスマホやパソコンからでるブルーライトを浴びる
過眠症の診断方法と検査手順4つ
過眠症は、原因や症状によっていくつかの種類に分けられ、それぞれ適切な治療法が異なります。
自己判断で「疲れているだけだろう」「そのうち治るだろう」と安易に考えず、まずは医療機関を受診し、正しい診断を受けることが大切です。
ここでは、過眠症の診断において重要な4つのステップについて、具体的に解説していきます。
過眠症の診断手順
- 問診と身体検査
- ポリソムノグラフィー
- 睡眠日誌の活用
- 過眠症以外の疾患との鑑別診断
医療機関での過眠症に関する問診と身体検査
過眠症の診断は、医療機関を受診し、医師による問診と身体検査から始まります。
問診では現在の症状、睡眠時間、生活習慣、服用中の薬、過去の病気や家族の病歴など多岐にわたる質問を通して医師は患者さんの状態を総合的に把握していきます。
- 日中の眠気はどの程度ですか?
- 会議中や運転中に眠ってしまうことがありますか?
- 何時間寝ても眠いですか?
- 夜中に何度も目が覚めたりしませんか?
身体検査では、体重測定や血液検査などを行い、甲状腺機能低下症や鉄欠乏性貧血など、過眠症と似たような症状を引き起こす他の病気が隠れていないかを調べます。
問診と身体検査の結果を踏まえ、医師は過眠症の可能性が高いと判断した場合さらに詳しい検査へと進みます。
ポリソムノグラフィーの重要性
ポリソムノグラフィー(PSG検査)は、「睡眠検査のゴールドスタンダード」とも呼ばれ、過眠症の診断において非常に重要な検査です。
この検査では一晩入院し、脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸状態、血液中の酸素飽和度などを睡眠中のさまざまな生体情報を記録します。
- 過眠症と似たような症状を引き起こす他の睡眠障害や睡眠に関連する病気を正確に見つけられる
- 睡眠の深さや睡眠段階の移行などを分析することで、睡眠の質を客観的に評価できる
これらのデータから、医師は患者さんの睡眠の状態を詳しく分析し、適切な診断と治療法を検討します。
睡眠日誌の活用方法
睡眠日誌は、毎日の睡眠時間、起床時間、昼間の眠気の程度などを記録するものです。毎日欠かさず記録することで、自分の睡眠パターンや生活習慣を客観的に把握できます。
- 就寝・起床・睡眠時間
- 睡眠の質
- 昼間の眠気の程度
- カフェインやアルコールの摂取
- 服用した薬
これらの情報を総合的に分析することで、自分の睡眠習慣の問題点に気づくことができ、生活習慣の改善にも役立ちます。
毎日決まった時間に寝起きしているにも関わらず、日中の眠気が強い日が続いている場合は、ストレスや食事の内容、運動習慣などに問題のある可能性が考えられます。
過眠症以外の疾患との鑑別診断
過眠症は、特発性過眠症やナルコレプシーなどのように原因がはっきりしないものだけでなく、うつ病、甲状腺機能低下症、鉄欠乏性貧血など他の病気によって引き起こされることもあります。
これらの病気と過眠症を区別するためには、問診や検査結果などを総合的に判断する「鑑別診断」が重要です。
鑑別診断では患者さんの症状や病歴、生活習慣などを詳しく聞き取り、過眠症以外の病気が疑われる場合には血液検査や画像検査などの追加検査を行います。
たとえばうつ病が疑われる場合は精神科医による診察や心理検査を行い、甲状腺機能低下症が疑われる場合は血液検査で甲状腺ホルモンの値を測定します。
過眠症の診断には、さまざまな検査や医師の総合的な判断が必要となります。
自己判断で「疲れているだけだろう」と安易に考えず、まずは医療機関を受診し、専門医の診断を受けることが大切です。
過眠症の治療方法3つと回復の見込み
過眠症は、日常生活に支障をきたす可能性もある病気です。
適切な治療や生活習慣の改善によって、症状をコントロールし、毎日をより快適に送ることを目指しましょう。
今回は、過眠症の治療方法と回復の見込みについて詳しく解説していきます。
過眠症の治療方法
- 薬物療法
- 認知行動療法
- ライフスタイルの調整
過眠症の薬物療法の種類と効果
過眠症の治療には、大まかに「薬物療法」と「非薬物療法」の2つがあります。
- 薬物療法:過眠症の症状を直接的に改善するために、医師の処方のもと薬を使用する方法
- 非薬物療法:薬を使用せずに、生活習慣の改善や認知行動療法で改善する
過眠症の治療は、薬物療法と非薬物療法を組み合わせることでより効果が期待できます。
過眠症の治療薬として、モダフィニルやメチルフェニデートなどが用いられます。
脳内の神経伝達物質に作用することで覚醒を促し日中の眠気を軽減する効果がある薬です。
過眠症の認知行動療法
認知行動療法では、過眠症を引き起こす原因となる思考パターンや行動パターンを特定し、改善していくことで、過眠症の症状の軽減を目指します。
「私は疲れているから、毎日長時間眠らないといけないんだ」という誤った思い込みを持っているとします。
この思い込みが、必要以上に睡眠時間を長くしてしまう原因となっている可能性が高いです。
認知行動療法では、疲れているときでも適切な睡眠時間と生活習慣を維持すれば、日中の眠気を抑え、活動的に過ごせるという新しい考え方を取り入れていきます。
睡眠に関する行動パターンを見直し、改善していくことも重要です。
「夜遅くまでスマホをみてしまう」「寝る前にカフェインをとってしまう」など、睡眠の質を低下させている行動パターンの改善をすることで、過眠症の症状を軽減できる可能性があります。
ライフスタイルの調整で過眠症の治療と予防をする
過眠症の治療や予防には、ライフスタイルの調整が非常に重要です。とくに、睡眠と覚醒のリズムを調整する「体内時計」を整えることが大切です。
体内時計が乱れると睡眠障害や自律神経の乱れ、疲労感、集中力の低下など、さまざまな不調が現れる可能性があります。 体内時計を整えるためには、規則正しい生活習慣を心がけることが大切です。
毎日同じ時間に起床・就寝することで、体内時計がリセットされ、自然な睡眠と覚醒のリズムを取り戻せます。
過眠症の治療期間と回復の見込み
過眠症の治療期間は、原因や症状の程度、治療法、患者さんの年齢や健康状態などによって大きく異なります。そのため、一概に「○週間で治る」「○ヶ月間治療すれば完治する」とは言えません。
生活習慣の改善や薬物療法によって、数週間から数ヶ月で症状が改善することもあります。
- 過眠症の治療中は、定期的に医療機関を受診し、医師の診察を受けることが大切
- 治療の効果や副作用の出現などを確認しながら、必要があれば治療法の見直しなどを行う
過眠症の治療中は定期的に医療機関を受診し医師の診察を受けましょう。治療の効果や副作用の出現などを確認しながら必要があれば治療法の見直しなどを行います。
過眠症は、日常生活に支障をきたすほどの強い眠気を伴う病気です。
日中の眠気は、会議や運転中に集中力を欠いたり、事故につながったりする危険性もあるため、放置せず適切な治療が必要です。
過眠症の治療期間は、原因や症状の程度、治療法、患者さんの状態によって異なります。軽度であれば数週間から数ヶ月で改善することもありますが、重度や合併症がある場合は長期にわたる治療が必要となることもあります。
過眠症を疑う場合は、医療機関を受診し、専門医の診断を受けてください。