コラム
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中枢性睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気?症状の特徴と検査方法
中枢性睡眠時無呼吸症候群(central sleep apnea: CSA)は、脳が呼吸の指令をうまく出せなくなることで、睡眠中に呼吸が止まってしまう病気です。
いびきが少ない、あるいは全くいびきをかかないのに、睡眠中に呼吸が止まる場合は、中枢性睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)には、大きく分けて「閉塞性」と「中枢性」の2種類があります。
この記事では、中枢性睡眠時無呼吸症候群の原因や症状、睡眠時無呼吸症候群との違いや検査方法について解説します。
中枢性睡眠時無呼吸症候群とは?
「中枢性睡眠時無呼吸症候群」と聞いても、一体どんな病気なのか、想像が難しいです。
中枢性睡眠時無呼吸症候群とはどういった病気なのか解説します。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の定義と病態について
私たちの体は、寝ている間も脳から肺や気道などの呼吸器官に「息を吸って」「息を吐いて」という指令が送られることで、呼吸を続けることができます。
中枢性睡眠時無呼吸症候群では、この脳からの指令がうまく伝わらなくなってしまい、呼吸が乱れたり、一時的に止まったりしてしまうのです。
中枢性睡眠時無呼吸症候群と閉塞性睡眠時無呼吸症候群の違い
睡眠時無呼吸症候群には、大きく分けて「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」と「中枢性睡眠時無呼吸症候群」の二つがあります。
どちらも睡眠中に呼吸が止まってしまう病気ですが、その原因が大きく異なります。
「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」は、空気の通り道である気道が、物理的に塞がってしまうことで呼吸が止まります。
これは、肥満や扁桃腺の肥大や、舌の根元が喉の奥に落ち込むことなどが原因で起こり、空気の通り道が狭くなってしまうために起こります。
一方、「中枢性睡眠時無呼吸症候群」では、気道が塞がっているわけではありません。
脳からの呼吸の指令がうまく伝わらなくなることで、呼吸が止まってしまうのです。
これは、脳卒中や脳腫瘍、心不全などの病気が原因で、呼吸中枢が障害されることで起こることがあります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、気道という「呼吸の通り道の問題」が原因で起こるのに対し、中枢性睡眠時無呼吸症候群は、「呼吸の司令塔である脳の問題」が原因で起こる病気と言えます。
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に比べて、患者数が少なく、原因や症状も複雑なため、診断や治療が難しい場合もあります。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の原因と発症メカニズム
中枢性睡眠時無呼吸症候群の原因は、脳からの呼吸指令がうまく伝わらなくなることにあります。この「指令の伝達エラー」を引き起こす原因は様々で、大きく3つに分類されます。
脳卒中や脳腫瘍、パーキンソン病などが例です。
脳卒中を例に挙げると、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、呼吸中枢を含む様々な機能に影響が出ることがあります。
呼吸中枢に損傷があれば呼吸の指令が出せなくなるため、中枢性睡眠時無呼吸症候群を引き起こす可能性があります。
睡眠薬や鎮痛剤、抗不安薬なども呼吸中枢の活動を抑制する要因です。
これらの薬は、脳の活動を鎮静化させる作用があるため、服用量によっては呼吸中枢にも影響を及ぼし、呼吸の指令が弱くなることがあります。
心不全や高地への滞在、肥満などもリスク因子です。
心不全の場合、心臓のポンプ機能が低下することで全身への血液循環が滞り、酸素供給が不足しやすくなります。
すると体は酸素を取り込もうと呼吸数を増やそうとしますが、この時、呼吸中枢がうまく機能しないと呼吸が不安定になり、中枢性睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まります。
呼吸中枢が機能低下を起こす原因についてはまだメカニズムは未だ解明されていません。
現状は、肺うっ血による迷走神経刺激などが原因と考えられています。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の症状と特徴
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、脳からの呼吸指令がうまく伝わらなくなる病気です。
そのため、睡眠中に呼吸が不安定になり、様々な症状が現れます。自覚症状が少ない場合も多いですが、周囲の人が異変に気づくことがあります。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の具体的な症状や特徴
中枢性睡眠時無呼吸症候群の具体的な症状としては以下です。
- 就寝中に呼吸が止まっている
- いびきとは異なる呼吸音を出している
- 頻繁に目が覚める
- 起床時に頭痛がする
- 日中に強い眠気がある
例えば、一緒に寝ている家族から「呼吸が止まっている時がある」と指摘されたり、「息苦しそうにハッと起き上がることがある」と心配されることがあります。
また、日中の会議中や運転中など、集中力が求められる場面で強い眠気に襲われることもあります。
中枢性睡眠時無呼吸症候群による日常生活への影響とその対策方法
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、睡眠の質を低下させるため、日常生活に様々な影響を与える可能性があります。日中の眠気や集中力の低下によって、仕事に支障が出ることもあります。
また、居眠り運転による自動車事故のリスクが増加することも知られています。
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、適切な治療を行うことで症状の改善が期待できます。治療法としては生活習慣の改善、薬物療法、機器療法など患者の状態に合わせて選択されます。
例えば、高血圧や心不全などの基礎疾患がある場合はその治療を優先的に行います。
また睡眠薬などの薬剤が原因となっている場合は、薬剤の変更を検討します。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の症状は、睡眠中のどの時間帯にも起こる可能性があります。
疲労やストレスが溜まっている時、飲酒後、睡眠薬などの薬剤の影響がある時、高地など酸素濃度の低い場所では、症状が悪化しやすくなる傾向があります。
例えば、徹夜明けで疲れている時や重要なプレゼンテーションを控えて緊張状態にある時などは、症状が悪化しやすいため注意が必要です。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の診断と検査方法
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸を調整する脳からの指令がうまく伝わらなくなることで、呼吸が浅くなったり、一時的に止まったりしてしまう病気です。
適切な治療を行うためには、まず、中枢性睡眠時無呼吸症候群を正しく診断することが重要です。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の診断方法や検査について
中枢性睡眠時無呼吸症候群の診断は、患者への問診から始まり、以下のような質問をします。
問診で質問する内容
- 「家族から、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘されたことはありますか?」
- 「日中に強い眠気を感じたり、集中力が続かなかったりすることがありますか?」
心不全や脳血管疾患などの病気の既往がある方は、中枢性睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まることが考えられます。
さらに、特定の薬剤が原因で中枢性睡眠時無呼吸症候群を発症することもあります。
その要因を探るためにも、上記の質問に加えてさらに詳しく状況を聞くことで、中枢性睡眠時無呼吸症候群の可能性を探っていきます。
問診で中枢性睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合には、確定診断のため睡眠ポリグラフ検査を行います。
睡眠ポリグラフ検査は、一晩入院し脳波、呼吸、心電図、体の動きなどを同時に記録することで、睡眠中の状態を詳しく調べる検査です。
検査対象 | 詳細 |
---|---|
睡眠中の呼吸の状態 | 呼吸が止まっている時間の長さや回数、呼吸が浅くなっている時間などを調べます。 |
眠りの深さ | 波を測定することで、睡眠の深さを分析します。 |
体の動き | 体の動きを測定することで、睡眠中の体の状態を把握します。 |
この検査によって、睡眠時無呼吸症候群の種類(閉塞性か中枢性か)や重症度を正確に診断することができます。
睡眠ポリグラフ検査は、睡眠中の体の状態を記録するモニタリング装置です。
睡眠中に何が起きているのかを明らかにすることで、適切な治療法を選択することができます。
一人暮らしの方は自身では睡眠中の変化に気づきにくいため、本当に呼吸が止まっているのかを知るためにも重要な検査方法です。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の合併症と予防方法
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、適切な治療を行わずに放置してしまうと、様々な合併症を引き起こす可能性があります。
初期の段階で適切な対応をすることが重要です。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の合併症と後遺症
中枢性睡眠時無呼吸症候群によって引き起こされる合併症と後遺症には、以下のようなものがあります。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の合併症と後遺症
- 日中の眠気・集中力低下
睡眠時無呼吸によって睡眠の質が低下し、日中に強い眠気や集中力の低下が現れることがあります。
これは、脳が睡眠不足の状態になることで、正常な働きが阻害されるためです。
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、私たちの日常生活に大きな影を落とす可能性があります。 - 心血管疾患
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、心臓にも大きな負担をかけます。
睡眠時無呼吸によって血圧や心拍数が乱高下し、心臓に過剰な負担がかかることで、高血圧や不整脈のリスクが高まります。 - 認知機能の低下
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、脳にも影響を及ぼします。
十分な睡眠が得られないことで、脳の機能が低下し、記憶力や判断力の低下、集中力の減退などが現れることがあります。 - うつ病などの精神疾患
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、心の健康にも影響を与えます。
睡眠不足や日中の眠気、集中力低下などは、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を増やします。
コルチゾールの分泌が増えると、脳内のセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質のバランスが崩れ、うつ病などの精神疾患のリスクが高まると考えられています。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の予防方法と注意点
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、生活習慣の改善や基礎疾患のコントロールによって、発症を予防したり、症状を軽くしたりできる場合があります。
睡眠不足は中枢性睡眠時無呼吸症候群のリスクを高めるため、毎日決まった時間に寝起きし十分な睡眠時間を確保することが大切です。
睡眠は、体や脳を休ませ、疲労回復や健康維持に欠かせないものです。
睡眠の質を上げるポイント
- 就寝前にリラックスする時間を作る
スマートフォンやパソコンの画面から発せられるブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制するため、就寝の2〜3時間前からは使用を控えましょう。 - 寝室の環境を整える
室温は25℃前後、湿度は50~60%が最適です。また、遮光カーテンを使用するなどして、光を遮断することも大切です。 - 禁煙
タバコは気道の炎症を引き起こし、呼吸機能を低下させるため、中枢性睡眠時無呼吸症候群のリスクを高めます。
禁煙は、呼吸器の健康を改善するだけでなく、全身の健康にも良い影響を与えます。
適度な運動は、肥満の解消やストレスの発散、睡眠の質の向上に効果があります。
毎日30分程度のウォーキングなどの軽い運動を習慣にすることから始めましょう。
運動がもたらす効果
- 肥満の解消
- ストレスの発散
- 睡眠の質の向上
アルコールを飲むと眠くなる方が多いです。アルコールには脳の機能を抑制する作用があるため、中枢性睡眠時無呼吸症候群のリスクを高めます。
特に、就寝前のアルコール摂取は控えることがおすすめです。
アルコール摂取を控える効果
- 筋弛緩による気道の閉塞を防ぐ
- 呼吸中枢の抑制を防ぐ
- 睡眠の質を向上させる
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、日常生活に支障をきたすだけでなく、様々な合併症のリスクを高める病気です。
日頃から、生活習慣に気を配り、健康的な生活を送ることで、予防に努めましょう。
また、睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、早めに医療機関を受診し、適切な検査や治療を受けることが大切です。